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ただ、あなたを見守りたいと思う。   和彦様

なんだか、たくさんのことに怯えている人間だと思った。
目立つことに怯えて、本音を言うことに怯えて。
本人は目立たないように振舞っていたが、自然と目が彼を追っていた。
そんな彼がふと、怯えることを少しだけやめた。
驚き、怒り、笑い。
引き出したのは、親友だった。
全てが素晴らしい表情で、もっと見てみたかった。
だから自分ももう少し彼に近寄ってみて、案外拒絶されなくて安堵したのを覚えている。
でももう一歩寄るとさすがに一歩引かれてしまいそうだったので、親友が自分より五歩くらい彼の傍に寄るのを待ってみた。
すると、彼の周囲に対する壁が少し緩んだ。
よし、もう少し傍に行ける。
そんなことを思った自分が不思議で、でも嫌ではなかった。


 流した汗を水道水で流した後、顔を拭きながら歩いていると小さな人影を見つけた。
定まった視線の先には休憩時間だと言うのに数人の部員とサッカーをして遊んでいる男がいて、あぁなるほどと心の中で頷きながら声をかけてみる。

「…瀬田」
「蓮田?」

はっと我に返った彼が、こちらを向く。
見られてたかと恥ずかしそうに微笑む彼を見て、やはりこれも彼が転入してきた当初は見られなかったものだと思う。

「秋本待ってるんか?」
「あぁ…約束とかはしてないんだけど」
「良ぇやん、あいつアホみたいに喜ぶで」

それもちょっとな、唇を少し変な形に曲げて笑う彼は、また元の場所へと視線を向けて。
倣うようにしてそちらへ視線をやれば、ちょうど親友が二人の部員を一気に抜いてしまうところだった。
大きな体に似合わず軽快な動きをする親友に、すごい、と隣の彼が呟いたのが聞こえてくる。
視線を戻せば案の定輝いている二つの瞳に、ざわりと胸中がざわめく。

 絶対に他の奴のことは、そんなふうに見つめへんよな。

彼は、自分に遠慮している所がある。
それは友人といえども他人なのだから、当たり前のことだとも思う。
けれど秋本貴史と瀬田歩の距離は、近い。
どれくらい近いかは、少し考えたくはない。

どうしてかは、もっと考えたくない。

「あゆむー!!」
「あ、秋本気付きやがった」

でもまぁ、自分の『親しい友』が彼の表情を引き出してくれるのなら。
それを、他人よりはずっと近い距離で眺めていられるのなら。

ただ、あなたを見守りたいと思う。

「ほら、行ってみぃ!」
「わわっ」

あなたの背中を強めに叩いた手は、すこしだけいたかったけれど。


(終)




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