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蘇芳 (管理人)



夕陽の下で   和彦様

 長く退屈な授業がやっと終わって、一つ背筋を伸ばした。
ぼきぼきという音すら聞こえてきそうな体に眉を顰めて、立ち上がる。
まったく、あの先生の声はまるで眠りの粉のようだった。
纏わりついて、執拗に眠りの世界に誘ってくる。
「じゃあ、来菅バイバイ」
声に顔を上げると、知的そうな瞳が眼鏡越しに微笑みかけてきていた。
「あぁ…、なぁ、高原」
それはいつでも俺が学力で越せない相手で。
以前は何だか卑屈に構えていたのだが、今ではどうでもよくなっている気がする。
いや、むしろ良い奴なんだろう、とすら思ってきている。
それは、ある一人の奴に対する高原の対応を見ているからで。
 そんなふうに今まで見てなかったことまで、ある一人の奴を見ることでわかってくる。
変な感じや。
「ん、なんや?」
「あれ、起こさんで良ぇのか?」
 ぴし、と指を差した場所を見て「あぁ」と高原が笑う。
そこには先生の眠りの粉と最後まで戦い、結局敗れてしまった勇者が一人。
後姿しか見えないが、いまだ背を丸めて心地良さそうに寝息を立てているのが窺える。
「瀬田…頑張ったもんな」
「あぁ、かっくんかっくん動いてたのは見えたな」
「まぁ、大丈夫やろ。放っておいても」
「おい、良ぇのか?」
意外だ。
無責任にも思える高原の言葉に目を見開くと「大丈夫」と自信に溢れた笑顔が返って来る。
「おっきな相棒が迎えに来るわ」
「…あー…」
ちり。
 嫌な感じに燻った胸を、咄嗟に知らん振りする。
知らん。こんなもん知らん。
「気になるんなら帰る前にでも声かけてやるとえぇで」
「え、おい」
じゃ、と片手を上げた秀才はやっぱり微笑を残して去っていった。

 もう、日が暮れて。
俺は真っ赤に染まった教室の中、ただひとつ残ってしまった人を見つめていた。
それはやっぱり目を覚まさないジュリエットで。
 あと十秒。
十秒待って、起きなかったら起こしに行こう。

「…これ、何回言うてるんやろ」
 思わずため息が零れた。
情けない。
でも、立ち上がっても足は進まなくて。
声も出なくて。
「…情けない」
 ふと、さわがしい足音が耳に入って、慌てて鞄の中から用もない教科書を抜き出し、机の上に広げる。
今日の復習の為にここにいる、と見えるように。
大きな音を立てて、扉が開く。
「あーゆむっ!何やまだ寝てんのか?」
今まで近づけなかった距離を、一気に縮める男。
眠りに落ちているジュリエットを、覗き込む。
 その近い距離に、ぢりぢりと胸が焦げる。
「あゆむ〜?」
「…?…わっ、ちょ、何で秋本がここにいるんだよ!?」
「もうとっくに授業終わったからに決まっとるやん」
「うそ!?」
「嘘やないで。何なら時計見とく?」
「いい、いいよ、ていうか近いぞ秋本」
「なんやつれないなぁ」
「つれなくていい」
「あ、なぁなぁ一緒に帰ろうで、歩っ」
「……あー…はいはい」

 ふと、顔がこちらを向いた。
「来菅」
驚いたような顔をして。
机の上に広がった教科書を見て。
何だか困ったような顔をして。
「無理しすぎないように、な。ばいばい」
「じゃな、来菅」
 立ち上がった彼は、当然のように大きな男の隣へと。

「…知らん」
ぢりぢりぢり。

「こんな気持ち、知らん…っ!!」


(終)




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