士朗様 米子様 碧様 未桐 彰様 にしだともき様 ゆずき様不機嫌な理由 依緒様 夏も近づき始めたある日、来菅は不機嫌だった。 (いくらなんでも近すぎやろ…) 1週間前の席替えで、彼は教室のど真ん中の席をゲットしてしまった。 嫌でも教師の目にはいるこの席も嫌だったが、今彼の中を占めている不機嫌の理由は、前の席の高原と、その隣に立っている、瀬田歩だった。 教科の先生が欠席ということから自習になった国語の時間、4時限目、生徒たちは早々に課題を終わらせて、各々の一時を楽しんでいた。 歩も高原の席にやってきて、高原と雑談をしている。 その二人の顔の距離がなんだかすごく近いのだった。話がすごく盛り上がってるのだろうが、歩は高原を覗きこみ、満面の笑みを浮かべていた。 (いやいや、近い近い!) 二人が楽しそうなのも、こんなに近くにいるのに話に入れないのも気に入らなかったし、二人が近づく度に聞こえる女子達の興奮した囁き声も気に入らなかった。(多分文芸部のやつだったと思う) ここにいない秋本にさえもむかついた。 そんな気分で問題集を解いていると 「なんや、えらい機嫌悪いなぁ」 と自分の席で寝ていたはずの蓮田がやってきた。 「あっ蓮田、すごいねてたよな。」 「ああ瀬田…もう、プリントなんてやってられへんわ。それでなんで来菅はそんなに不機嫌なんや?」蓮田が聞いてきた。 「不機嫌とちゃうわ」と思わず言い返すと 「不機嫌やんか、もしかして高原にジェラシー感じてるんか?」蓮田がにやけながら言う。 「はっ!?何言ってるんや?俺がいつ嫉妬したって言うねん?」来菅が声を荒げて立ち上がる。 「何をいきなり大きな声出して」 「来菅…怒ってる?」 話を再開していた高原と歩も、クラスメイト全員がこっちを見ている。女子達なんかはもう凝視の域だ。 「今やけど、めっちゃにらんで見てたし。まあそう怒るなって」蓮田がなだめるように言うと 「怒ってへんわ!!」来菅が一層大きな声を出した。 その時、授業終わりのチャイムが鳴った。 クラスメイト達は何事も無かった様にばらけていった。 来菅もいすに座り、静かに机に突っ伏した。 (もういやや…なんなんや俺…) (終) 屋上にて。 月館霞音様 空が、うっすらと橙色を帯び始めている。 高原有一は、笑いながら階段を下りていった森口京美の後を追った。 二人分の足音が、やけに響く。 * * * * * 森口が怒っているような顔を見せながら、半ば強引に瀬田歩をを引っ張っていく。 その後を四人で気付かれないように付けている時、高原は、何ともいえないような感情に包まれていた。 自分の持ち得る知識の中、その中に今のこの感情を表す、的確な言葉は見当たらない。 森口と瀬田がどうしているのかという不安。 瀬田に対する嫉妬もあるように思える。 けれど、それが全てではない。 「高原君、どないしたんや。なんかぼんやりして」 篠原友美が首を傾げる。 「そりゃ、森口のことが心配なんやろ、なあ」 蓮田伸彦がにやつきながら言うが、聞き流されていた。 「いや……なんでもないよ」笑みを作る。 「おい、屋上行ったで、歩と森口」 秋本貴史の声で、四人は屋上へ続く階段へ向かった。 * * * * * 風が吹いている。 学生服の裾がはためく。 フェンスのところに、森口と瀬田の姿が見える。 「あ、なんか喋ってる、くそっ、聞こえないやないか」 「そりゃ、この距離やからな」 秋本と蓮田が何か言っているが、ほとんど耳に入らない。 二人が、何を話しているか。 どういう会話を、交わしているのか。 次々に想像が浮かんでは、泡のように割れていく。 最初、森口が瀬田に、湊市のことを説明しているようだった。フェンスの外を指差している。 そして、暫く何も言わなくなった。 入口付近でその様子を見ている四人も、黙る。 学校という空間の中、生徒が、教師が、今、此処で、動いている。 その音が、聴こえる。それだけが今は、聴こえている。 気が付くと、沈黙は終わっていた。 森口がセーラー服をたくしあげた。 「……」 それから先は、あまり覚えていない。 二人がこちらに戻ってきて、自分が瀬田に何か言ったみたいだが、何を言ったのかよく分からない。 混乱している。 赤くなる顔だけは分かった。 * * * * * 覚えていないようで、一つだけ覚えている。 「うそやと思う。絶対うそや」 森口が、想いを口にする。 暫く聴きとれなくなるが、また聴こえてくる。 「がんばって、漫才ロミジュリやるの。やりたいの」 森口の想いが、聴こえた。 大きな声で、自分に言い聴かせるように言っていたのだろう。 だからこそ、こちらまで聴こえた。 森口の中で響いている、怒りや決意や様々なモノが、高原や他の三人にも響く。 気が付くと、森口は既に階段を下り、角を曲がっているところだった。 慌てて後を追う。 * * * * * 「も、もり……森口さん……」 息も絶え絶えになりながら、なんとか追いついた。 「あ、高原君、どないしたん」 森口が振り返り、短い髪が揺れる。 「森口さん―――」 何か言おうとして、言えなかった。 何を言おうとしたのか。 何を言おうとしていたのか。 少しでもいい、森口の想いに添える言葉を探す。 美しい嘘の言葉より、自分の本当の言葉を。 時間が、遅く流れているように思える。 「………ロミジュリ、成功するとええな」 結局、これしか言えなかった。 すると、 「当たり前やん」微笑んだ。 「そ、そうだね……」 「それに―――」「それに?」 「成功“させたい”やなくて、“させる”んや」 綺麗に笑った。 「……うん」 しっかり、頷いた。 「ほな、はよ行くで。まだまだやること山ほどあるんやから」 そう言って、二年三組の教室に向かう。 窓からの白い光が、彼女を映し出していた。 (終) |